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「でもアリサさんはどうしてその事を?」
「ふふ。だって臭いが洋服にいつもついているんですもの。私に気を使ってくれ
ていたのね。優しいコだから。」
「優しい?!アイツが?!アリサさん!騙されちゃだめです!!」
「アル!!!!」
「沢山のものを抱えてどうすればいいのかわからないのね。時々は頼ってくれる
と嬉しいんだけど・・・・。心配させないようにいつも一人で背負い込んで・・・あの
時みたいに弱い部分も見せてくれてもいいのにね。」
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「え?あの時?」
「アリサさんはそれ以上言わなかったけどあの時ってなんだ?」
「いや、オレにも心当たりは・・・・」
アレフの回想話の右側がものすごーーーく気になったがあえて無視しよう。うん。
「アルベルトの奴あの時は相当怒ってたぜ。今は相当まるくなったけどなー。
オレはてっきりお前はアリサさんの事が好きなんだと思ってた。アリサさんだって・・・」
「ハハッ。それはないよ。だってオレにとってアリサさんは・・・・・・」
そう言いかけた時ふいに思い出した光景があった。
「あ・・・・・・・・もしかして・・・・・」
「なんか思い出したのか?」
そうだ。『あの時』だ。
「このエンフィールドに来た最初の日、倒れてアリサさんに助けてもらったあの日・・・・・」
オレは次の街を目指しあてもなく彷徨っていた。けれど次の街へ行ってもどうせ
同じ事を繰り返すのだろう・・・・じゃあオレは何の為に生きているんだ?
それまでの荒れた生活で身も心もボロボロだった。食欲もなくし『もう死んでも
いいや。』そう思い、飲まず食わずにそれでも歩き続けた。
けれど歩く事も出来なくなり倒れ込んだオレはようやく死ねる、これでようやく
楽になれる・・・・これで・・・・
その時思い浮かんだのは家族の顔。長い間の荒んだ生活の中で正直家族の顔なん
てもう朧げにしか思い出せずにいた。
それでも家族で笑いながら喧嘩しながらただ普通に生きていたあの頃・・・・
もう戻れる事はないのだろう・・・・・戻りたい・・・・・あの頃に・・・・・・
誰かの顔が遠くに見える。その誰かが呼んでいた。必死で誰かを。
・・・・・・誰だろう?
ああ。呼んでいたのはオレか・・・。オレを呼んでいたのか。
「母さん・・・・。」
伸ばした手を掴んで彼女は一言、
「もう大丈夫よ。」
そう優しく微笑んだ。
「今思えばあれはアリサさんだったんだ。オレの覚えている母親はいつも怒鳴っ
てばかりいてアリサさんとは似ても似つかない人だった。
けれど・・・それでもオレにとってアリサさんは母のような人なんだ。」
思い出す母は怒鳴ってばかりだが、今思い返せばそれはとても愛情で溢れていた。
けれど幼かった自分はそれを五月蝿いとしか思えずにいた。今ならもっとしてあ
げれた事もあったはず・・・。
そう思えるようになったのはアリサさんに出会ったお陰だ。
だから両親に出来なかった事をアリサさんにしてあげたいと思う。
誰よりも幸せになって欲しいと願う。
けれどそんな思いに暗い影を落とすのは自分のして来た過去の過ち。
どんなに拭っても拭いきれない罪の数々。
何もかもを忘れて生きて行けるのならばどんなにいいだろう。
だが罪は罪。忘れる事も消す事も出来ない。
ああ。オレは怖いんだ。いずれはこの生活を手放さなきゃいけない日が来る、罪
を償わなきゃならない日が来る、その日が来るのが怖いんだ。
幸せだと感じれば感じる程に罪の意識が重くなる。重くて重過ぎて息苦しくなる。
「たぶんオレはトーヤに依存してるんだ。」
「依存?」
「あの人はさ、何も言わないけどきっと色んな事気付いてる。気付いた上で受け
入れてくれるから楽なんだ。オレは。・・・・それに甘えているだけなんだ。」
いっそのこと今までの罪を責めてくれれば、自分を突き放してくれればオレはき
っとこの街を離れられるのだろう。
だけどここの人達は何も言わずに包み込んでくれるから、忘れていたモノを思い
出させてくれるから離れ難くなってしまった。
本当なら1年前にこの街を離れ旅に出た時にそのまま帰らない選択だってあったの
に気付けばここへ戻って来ていた。
きっともう自分からは離れる事は出来ない。
けれどずっとこのまま幸せに浸る事は出来ない、そう思うのはこれまでに何度も
追われて逃げて捕まって・・・それを繰り返して来た自らの経験から来るカンなのだろう。
そのカンが現実のものとなるのはそう遠くない未来でだった・・・・